民俗 MINZOKU

梵天祭の春──東北の神迎え

秋田や山形の山間部で旧正月の頃に行われる梵天祭は、神を迎えるための竹竿の依代を山に立てる行事である。色とりどりの紙や布で飾られた梵天は、雪原に立つと驚くほど鮮やかで、しかし同時にどこか厳粛な気配を持っている。

梵天は、本来は仏教の「梵天」(ブラフマー)に由来する語であろうが、東北の民俗行事におけるそれは、必ずしも仏教の神格とは結びつかない。むしろ、地域の山の神、田の神を迎える依代として機能している。

横手の梵天

横手市の旭岡山神社の梵天奉納行事は、毎年二月十七日に行われる1。各町内会が独自の梵天を作り、行列となって神社まで運び、奉納する。

梵天の頂上には鈴が付けられ、運ぶときに揺れて音を立てる。視覚と聴覚の両方が、神の到来を告げる装置となっている。

山と里の往来

梵天祭の核には、神が山に在り、定められた時に里に降りてくるという神観念がある。これは記紀神話の体系的な神々とは異なる、土着の神観念であり、その素朴さゆえに、災害や日常のなかで繰り返し更新されてきた。

形の変化

戦後、東北の人口減少に伴い、梵天行事は規模を縮小したり、簡略化されたりしてきた。それでも、完全に途絶えた地域は多くない。地域の人々は、形を変えながら、行事の核となる「神を迎える」という所作を残し続けている。

民俗行事は、文化財としての固定された形を持たない。むしろ、各世代が状況に応じて再編していく動的な実践である。梵天祭の鮮やかな色彩は、その動態のなかで、いまも東北の春を告げている。