編集部の本棚 ・ EDITORIAL BOOKSHELF

書架

JapanNarrative の編集部が、執筆と編集の傍らで読みつづけている本について。一冊ごとに、なぜそれが本誌の主題と通じているのか、簡潔な覚え書きを添えています。

ここに並ぶのは、いずれも編集部が繰り返し戻ってくる書物です。文学・歴史・思想・民俗の各分野から、新刊と古典をひと棚にまとめました。網羅的な書誌ではありません。むしろ、ある時期の編集の方向を示す、いまの本棚の景色です。

文学 ・ Literature

雪国

夕方の光、汽車の窓、人物の輪郭。本誌『川端の夕光』の出発点となった一冊。短い文がもつ密度を、ほとんど物理的な感覚として教えてくれる。

沈黙

信仰と裏切り、声なき神。歴史小説でありながら、書き手と語り手の距離をめぐる文体の実験でもある。読み返すたびに別の本である。

萬葉集

八世紀の声がいまも鮮度を失っていない、日本語のもっとも古い驚きのひとつ。本誌『萬葉集の水』はここから始まった。

歴史 ・ History

幕末・明治の写真師たち

横浜と長崎の写真師たちの仕事を、時代の文脈とともに辿る。視覚という技術が、どのように一つの土地に根を下ろすかという問題に手がかりを与えてくれる。

東北の被災地 ・ 石碑と記憶

岩手・三陸海岸の津波石碑をめぐる現地調査の記録。本誌『津波石碑』を書くにあたり、最も重く参照した本。

思想 ・ Thought

善の研究

日本近代思想の出発点。「純粋経験」という鍵語を、現代の身体感覚から読み直す試みは、いまも編集部の中心的な関心のひとつ。

風土

気候と人間のあいだに置かれる「あいだ」。和辻の議論は、いまも民俗・地理・思想を横断する読みの作法を示してくれる。

「いき」の構造

美的概念を、徹底して関係のなかで定義する。短い書でありながら、書かれていない余白に多くの示唆がある。文体の研究としても繰り返し戻る一冊。

民俗 ・ Folkways

遠野物語

近代日本の民俗学が始まった場所。聞き書きという方法の倫理と限界を、いまも考えさせる。

山の人生

山に消えた人々の記録。語られない死、語ることができない悲しみ。本誌の物語欄が拠りどころにする一冊。

評論 ・ Criticism

本居宣長

批評文の最高峰のひとつ。一人の研究者を四十年かけて読みつづけた人の文体は、批評がどこまで深く一つの対象に入り込めるかを示す。

日本文学史序説

明治以降ばかりが日本文学ではないという、当然のことを徹底して書き切った本。各分野の見取り図として、編集会議でしばしば参照する。

編集部より

書架は、固定されたものではありません。新しい一冊が加わり、ある本が一時的に下げられることもあります。読者の方からの推薦はお問い合わせからお寄せください。本誌の主題と響きあう書物については、いずれ単独の評論として書き起こしていく予定です。