物語 MONOGATARI

北海道からの祖母の手紙

祖母の遺品を整理していて、束ねられた古い手紙が出てきた。差出人はすべて祖母の友人で、宛先は祖母である。半世紀近く前の北海道の冬から、祖母が東京の私に届けた最後の手紙まで、数十通の手紙が残されていた。

祖母は北海道の十勝平野の、帯広から少し離れた町で生まれ育った。戦後、進学のために札幌に出て、結婚して内地に渡った。それでも、彼女の言葉のなかには、最後まで北海道の方言の響きが残っていた。

手紙の物理

紙の手触り、インクの褪せ方、封筒の角の擦れ方──手紙の物理的な特徴は、書かれた内容と同じくらい多くを語る。

ある手紙の便箋は、長く湿気の多い場所に置かれていたらしく、ところどころ紙魚が食った跡があった。それでも、文字は読める。十年前、二十年前、三十年前のインクが、なお紙の上に在り続けている。

祖母の文体

祖母の手紙の文体は、口頭の語りとは別物だった。書くときの彼女は、語るときよりも控えめで、余白を尊重していた。

「冬になりました。今年は雪が多いです。」──こうした短い文の連なりが、ひと月の生活の輪郭を伝える1。情報は少ないが、季節の手触りは伝わる。

沈黙の時期

手紙の束には、明らかな空白がある。一九七〇年代後半から八〇年代前半にかけて、祖母は手紙をほとんど書かなかった。それは祖父が病で長く療養していた時期と重なる。

書かなかったのは、書くことができなかったからではあるまい。書くべき言葉を選ぶ余裕がなかった、というのが正確だろう。

最後の手紙

祖母の最後の手紙の日付は、彼女が亡くなる三ヶ月前である。「春になったら、もう一度十勝に行きたい」と書かれている。その春は来なかった。

手紙の束を箱に戻した。読み終えた後の沈黙のなかで、祖母の声が、書かれていた言葉とは少し違う響きで、耳に戻ってきた気がした。